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コンセプト 「医師とご両親がそれぞれの長所を活かして 指導のチームを作り、子どもに当たる」
診療対象:心身障害医療。特にてんかん、脳性小児麻痺、 知的障害や自閉症、小児糖尿病の治療
略歴 医師国家試験合格 東京大学大学院終了、医学博士号取得
あゆみ 東京大学医学部小児科学教室入局 東大附属病院小児科に精神外来、糖尿病専門外来開設 1963年(S38年)松戸クリニックを開設(EEG専門) 小児糖尿病サマーキャンプを開始(日本初) 東京都立大塚病院医員 1964年(S39年)日本肢体不自由児協会整肢療護園小児科医長就任 つぼみの会発足 1967年(S42年)松戸市心身障害児就学指導委員会委員の委嘱 1968年(S43年)日本肢体不自由児協会整肢療護園退職 松戸クリニック院長就任 東京女子医科大学小児科非常勤講師 1973年(S48年)「小児のけいれん治療のためのケトン食手引き」出版 1978年(S53年)松戸クリニック分室の開設 1988年(平成元年)医療法人社団わかば会設立、理事長就任 1996年(H 8年)東京女子医科大学小児科非常勤講師退職 2000年(H12年)特定非営利活動法人小児特定疾患療育会を設立 理事長に就任 2007年(H19年)日本糖尿病学会 「坂口賞」 受賞 松戸市就学指導委員辞任 「松戸市教育功労者表彰」 2008年(H20年)「糖尿病療養指導鈴木万平賞」 受賞 2009年(H21年)「ケトン食の本、奇跡の食事療法」出版 2011年(H23年)日本精神神経学会専門医指導医(H23〜28年) 2012年(H24年)小児糖尿病サマーキャンプ50周年を祝う 日本てんかん協会 「木村太郎記念賞」 受賞 ◎
自閉症
てんかんは誰もが知っているようで、なかなか分かりにくいものです。倒れて大きく突っ張っていれば、てんかんと思うでしょうが、てんかんでないものも多いのです。逆に吐きけしがしたり、おなかが痛くなったり、急にわけのわからない行動をしたりするのはなかなかてんかんとは気づきません。てんかんの特徴は多くは理由もないのに突然起こる現象です。 てんかんの診断には脳波検査が行われますが、てんかんでないのにてんかん脳波がみられたり、てんかんなのにてんかん脳波がないこともあります。しかし、てんかんとてんかん脳波には深い関係があります。人間はみなてんかん発作を起こす性質を持っています。電気ショックをかけたり、けいれんを誘発する薬を注射すると、全身けいれんすら起こすことができます。ではなぜてんかん発作が起こったり、同じようにしていても起らなかったりするのかはまだ十分にわかっていません。 てんかんを治療する必要がある場合その理由、すべてのてんかんに治療が必要なわけではありません。治療が必要なのは、発作によって死んだり、大けがをしたりすること。ついで発作が起きたり、繰り返したりすると脳が壊れて知的障害や身体障害を起こすこと、体の具合が悪くなる、学習の妨げになる、仕事場などでのハンデイキャップになる、一つの発作が次の発作の原因になる、病気を持っていると一段低くみられるなどです。 治療の必要性の有無を考え、治療が必要ならそのひとのてんかん発作に対して、最適の治療をめざすのですが、その治療の大部分は薬物内服療法です。注射療法や座薬療法もあり、食事療法、さらには外科的療法もあります。これらの判断や実施はすぐれたてんかん医によるもので、その実行は医師と本人との協力です。てんかんの薬物療法はとても厳格なもので、その効き目は採血して、薬剤の血中濃度を測定しながら判定してゆきます。1日の量、飲む時間、食事との関係もきちんとしなければなりません。飲み忘れなどはもってのほかです。 もし、薬を飲み忘れて発作を起こしたとすると、もう以前の薬をまた飲めばよいというわけにはゆきません。服薬量を増やす必要が生じます。これはてんかんの燃え上がり効果によるものです。また最近では発作を起こすと、発作の種類によってはその後2年間は自動車を運転することができなくなります。 私たちの扱う子供のてんかんの大部分は良性のもので、成長に伴って消えてゆきます。たとえば、単純性熱性けいれんや小児の良性部分てんかん、(ローランド回てんかん)などがこれに当たります。このような良性のてんかんで治療を受けている人は多分ここには来ていないでしょう。 てんかん治療で問題になるのは難治てんかんでしょう。大きく分けて2種類あります。そのひとつは症候性てんかんと言って元々脳にいろいろな障害を持っているものです。たとえば、結節性硬化症などのいわゆる神経皮膚症候群といわれているもの、滑脳症などの脳の形成異常、周生期に起こる病気による脳性まひ、脳出血、脳梗塞、脳外傷、脳炎などによる脳神経の破壊、などはもともと知的障害や身体障害を持っているうえにさらに難治なてんかんを持つことが多いものです。またもう一つはもともと難治なてんかんで知られている症候群があります。代表的なものはウエスト症候群、ドラべ症候群及びレンノクス・ガストー症候群です。これらは一括して年齢依存性てんかん性脳障害とよばれています。 最近はこれら難治なてんかんに有効な抗てんかん薬と称するものが開発されていますが、それなりに効果はあるのですが、発作をなくすところまでには至っておりません。 もう一つのてんかんの原因は脳の廃用性萎縮によるてんかんです。たとえば全盲児は脳の視覚領を使うことはできませんから、どうしても後頭葉視覚領の萎縮が起こります。そのため全盲者のほとんどに後頭葉てんかんを生じます。 脳波検査をすると後頭部にてんかん波が出るので分かりますが、発作自体は外から見てわかりませんので、気が付かないことが多いものです。このような廃用性萎縮によるてんかんは自閉症によくみられます。そのほかの障害でもこのようなことは起こり得るので、ほかにもたくさんあるものと思います。 難治なてんかんの場合、うまく抗てんかん薬の使用に発作が止まるとよいのですが、止まらない場合もあります。そのときには、てんかん発作による害や日常生活上の不自由と抗てんかん薬による眠気やふらつきなどの有害作用とのバランスをとりながら治療してゆくことになります。これはほかの障害とも同様なことで、すべてのてんかんが治療で止まり、障害がなくなるというわけではありません。てんかん発作とともにくらすというかたちになります。 発作による怪我がないようにしながら、学習し、運動し、できれば会社に勤務したり、作業所に通ったりします。 食事療法、主としてケトン食療法のことを指します。昭和42年私がケトン食の手引きを出版して、可能なようにしたのですがあまり使われませんでした。しかし病院などでは細々と行われていました。最近また機運があがってきたので新しく「ケトン食・奇跡の食事療法」を共同執筆で出版しました。
![]() ケトン食はてんかん治療の食事です。最近はGlut‐1欠損症や脳腫瘍の治療としても注目を浴びています。 1921年ごろからおこなわれるようになったとのことですが、抗てんかん薬との競争に負けがちで時々流行的に行われるのですが、すぐに廃れてしまうことを繰り返していました。でも難治なてんかんにはよく効くので試してみたいと思っていたのですが、日本語の本がなくて、したがって日本食では作りにくくて困っていました。 幸い佐野倫子栄養士にめぐり会い、73年に本を作りました。『てんかん治療のためのケトン食の手引き』(第一出版)です。この本は和光堂からケトミールというケトン食用粉乳が出てから77年に第2版をつくり再版しました。 今では明治乳業からケトンフォーミュラと言う名前で製造されています。これもやがてあまり使われなくなり本も絶版になっていたのですが、03年中蔦弘行氏が子息のウェスト症候群治療がうまくいかず悩んでいたところ私のケトン食の手引きに出会い、地元の栄養士さんの協力で実行したところ発作が止まりました。 これが機運で再度本を作ろうと言うことになり、松戸クリニック、静岡てんかんセンターおよび中蔦氏、岡崎栄養士の協力によって『ケトン食の本−奇跡の食事療法』ができました。今年の日本てんかん学会ではケトン食療法のセッションが組まれ、コソフ氏がこの本の紹介をしてくれました。大げさな題名ですがこれは以前NHKで放映されたケトン食でてんかんがよくなった少年チャーリー君の番組の名前を貰いました。 ![]() ![]() ![]() 丸山 博 (2020.12.25) まえがき 自閉症 最近では自閉症スペクトラム障害などと呼ばれています。こういわれても何やら訳が分からないでしょう。自閉症といえば近くにそういう子を見かけたことがあるけれど、おうちの中に閉じこもっているわけでもないし、少し変わっているけれど、知恵が遅れているみたいだったりしている。おまけにスペクトルですって?色か何かついているのかしら。 まことに困った名前ですが、これには歴史のあることで、これからは理解していただかなければなりません。
自閉症というのは、主として脳の働きの異常で未知の原因によるものです。本当は全身の異常なのですが、特に脳機能に問題があります。 幼児期にはことばが遅れていることが多く、成長するに従い対人関係がうまくゆかなくなることが目立ちます。 これまでに主として小児精神科医と成人を対象とする精神科医が対応してきたために、自閉症が精神の面からとらえられてきたために、実態がわからず、 ちょうど盲人が象をなでて、柱だとか壁だとか言っているのに似ています。 自閉症は心の病気ではありません。脳の作られ方と働きの異常と思われます。 現在の時点ではまだ自閉症の根本的な問題点はわかっていません。 これからは身体や脳機能の面から研究が進んでゆき、実態が解明され、やがては解明されて、治療や対策も科学的な方法がとられてゆくことになりましょう。 この本を書いたのは現在の自閉症児者、特に小児の指導に混乱があり、ときには見当違いな指導が行われたり、困った扱いを受けたりするのではないか(そういうことがないように祈っていますが)と思うからです。 また逆に自閉症という現在では、まだ障害である子どもに本来不可能な進歩を 望んで、無理な教育をしたり期待したりしてはいないでしょうか?。 まず本人への適切な教育、その子の持っている能力をうまく引き出してやること(これは大変な努力のいることですが大切なことです)とそれぞれの子の教育の限界を推定すること、それと逆方向から見て自閉症者の持っている社会での生きにくさを軽減してやることも大切です。 自閉症者が単なる厄介者でなく、その人なりの輝きをもって生きてくれることを願っています。 また自閉症者を社会に受け入れて、それぞれ人によって生き方は違ってよいと 思います。硬直した考え方に偏らないようにすることが大切です。 初めて自閉症を見出したのはアメリカの児童精神科医のレオ・カナーです。彼は1943年に知的障害児のなかに言葉が特に遅れていたり、奇妙な行動をとるものがいることを見出して、早期乳児自閉症(early infantile autism)と名付けました。 1年ほど遅れてオーストリアの精神科医ハンス・アスペルガーが自閉的精神病質(autistische psychopathie)と名付けた数人の子供を報告、その奇妙な思考法や行動を明らかにしました。これらの子供たちは重い知的障害はありませんでした。 1981年イギリスの精神科医ローナ・ウイング(娘さんが自閉症です)がカナーの自閉症とアスペルガーの自閉的精神病質を同じ疾患に属するものとして両者を合わせ、おそらくそのような経緯を踏まえてDSM-V(世界的に権威のある精神疾患の診断と分類法)では機能の低いものも、高いものもあって幅が広いことから、自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder)と名付けました。 つまり非常に障害の強いものも、一見軽く見えるものも一連の障害であるとしたわけです。 しかし、なぜこの障害に対し統合失調症の症状の一つである自閉症状の名前をつけたのかは私にはわかりません。 また、今でもこの名前を冠していて、それが自閉症の人たちの対策や治療に影響を与えていることに対して私は大変疑問を持っています。 自閉症は全身の異常と思われます。自閉症は単純に脳や精神の病気と思われますが、そう簡単なものではありません。 私も最近まで気づかなかったのですが、アスペルガー症候群の中には、体形がすらりとして手指が長い人がよくみられることに気づきました。このことはマルファン症候群という身体異常によくみられる症状なので、脊柱を見てみました。そして脊柱側弯が自閉症の人に必発であることに気づきました。あまりマルファン症候群に似ていない人でも脊柱側弯は必発なのです。多くは後ろから見て逆S型で、胸椎の屈曲がほぼ10度でした。 次いで症状の重い自閉症の人は頭が大きいことにも気づきました。 頭囲は幼児期からやや大きいのですが成長とともに次第に大きくなり、重い自閉症ですと男児ですと平均の55pを超えて58-62p位になります。女性でも平均の54pを超えて55-60cmになります。 そこで気づいたのは、自閉症スペクトラム障害の人は脳や骨格あるいはその他 の組織の成長に異常があるのではないかということでした。 考えてみれば人間の体の組織は常に変化しています。一つの細胞が一生、体の一部になっていることなど考えられません。常に入れ替えが起きてそれで何十年も生きながらえています。 そのメカニズムはある程度分かっています。それはアポトーシス(apoptosis)という名前で知られている現象です。それは木の葉が枯れ落ちるさまを表現しています。腐るのではありません。次の葉が出ることを予期しているのです。 生き物の体は常に入れ替わりながら成長し生き延びてゆきます。 アポトーシスが目に見える実態としては、手指の形成があります、胎児期には手はお椀状になっていますが、ある時期が来ると指骨の周囲を除いて組織が一斉に崩れて指が分かれて作られます。また四肢の骨が成長してゆくのも骨が破壊される作業と芽吹いて新生する作業が組み合わさって伸びてゆくのです。 脳でも何かしら同様の機序が働いていると思います。ただそれが脳の中の神経細胞なのか、グリア細胞あるいは血管を形成する細胞なのかはわかりません。 これからの研究課題です。 アポトーシスには2種類あると私は考えています。 一つは能動的アポトーシス(active apoptosis)でこれによって生物の活動は盛んになります。成長期がそれにあたります。 もう一つは受動的アポトーシス(passive apoptosis)で生物の機能はこれによって次第に衰えてゆきます。老化現象がそれでしょう。 脳細胞群のアポトーシスは、場所によって違いがあるようです。人の脳髄の進化による発達の段階によって脆弱性が異なるようです。大脳の両脇にある運動神経細胞は入れ替わりが順調のようですが、前頭部の細胞の入れ替わりは大変困難なようです。つまり自閉症の人は前頭葉機能の発達が非常に遅くかつ不十分である可能性が強いのです。言葉の意味が単純にしか考えられないとか、相手の気持ちまで思いが及ばないとかいうことになります。 もし脳細胞のアポトーシスがうまくいっていないとしたら、脳細胞の過剰が起きるでしょう。頭が大きくなるだけではなく、当然働きの異常も出てきます。 おそらく頭の中は過剰で機能不全な神経細胞がいっぱいになっていると思います。たとえて言えば頭の中はジャングル状態にあるということです。 ジャングルの中にいる個体は何をどうすべきかわからないでしょう。呆然と心 細く立ちすくんでいるのだと思います。 このような気の毒な状態に対してどのように対応してゆけばよいでしょうか。 それはこれからの問題です。後で触れることにいたします。 ◎
自閉症にみられるその他の症状、前章で述べた脊柱側弯と大頭症のほかの特徴について。 「早期の発達の特徴」 「言葉の発達の著しい遅れ」 これは療育者や医師が早期に気づくことですが、言葉が遅いということです。 重い自閉症では一生言葉が出ませんし、知能が平均より高い高機能自閉症でも始語が遅れます。人によっては言葉の折れ線現象(set back)といいますが、これは受け止めた言葉をそのまま反響語は早く出たが、意味を問われると出ていないということで、早く出るのは言葉ではありません。いわれた言葉を反射的に口から出していることで、大体意味のある言葉を言うようになるのは4歳前後です、 「まなざしの異常」 普通児では、生まれると間もなく視線は固定しあたかも何かを睨んでいるような感じになり、3か月にもなると、特に人の顔を凝視し、あたかも人の表情を分析しているように睨んでいて目を離しません。 ところが自閉症児では何となく人の顔を見ていて、すぐに目をそらせます。 「表情」 普通児では表情の変化が大きく、泣いたり笑ったりがすぐに出てくるのが普通ですが、自閉症児では幼児期には表情の変化が少なく、すましているように見えたりします。そのため時には高貴な印象を受けることがあります。 「競争心がない」 走らせても、ほかの子に抜かれても気にしない。負けて悔しいという意識に乏しい。 「てんかん発作と脳波異常」 自閉症の人にはてんかん発作を起こす人が多いことは、多くの人によって指摘されています。乳児期から就学前にかけては、たまに全身けいれんを起こすことがあるのですが、もっとも多いのは、青年期発作の大部分を占める前頭葉発作でてんかん発作の起始が前頭葉にあります。その症状は無動発作です。何かしている最中にふと意識を失い、動作が停止します。数秒間のことが多いので気づかずよくわからないまますませてしまうことが多いです。1日に何回も起こりやすいものです。気づくのは食事中などが多いです。こういう発作は多分自閉症児の 半数近くに生じているのではないかと思います。 全身けいれんはそれほど多いわけではありませんが、続発性全般発作と言って、前頭部に始まったてんかん性放電が、脳の中心部に及んでそこから全身に広がるものです。 脳波検査をすると自閉症児の脳波の基礎リズムは略正常で非自閉症児と比べてあまり変化はなく、非常に知的に遅れている自閉症児でも脳波の背景波は略正常(年齢が上がってくると前頭部に徐波が出てくるようになります)で、そこがほかの知的障碍児と異なる点ですが、青年期になると左右あるいは両側前頭部にてんかん性波形であるスパイクや鋭波の出現を見るようになります。脳波異常がなくても発作が起きていることがありますが、これは脳波検査に限界があるからで、前頭葉の深いところにてんかん焦点があると、通常の脳波検査では見いだせないこともあるからです。 ・てんかん性異常の治療 全身けいれんやあまりたびたびの動作停止発作があるときには治療が必要です。 治療が必要とされたとき、通常使われるのはバルプロ酸Na、レベチラセタム、ラモトリジンなどですが、比較的に少量で有効なことが多いものです。 ・頭のMRI所見 自閉症者は頭が大きいので、何が大きいのかMRI検査で調べてみました。 一見したところ、特に異常はありませんでした。無理に解釈してみますと、脳灰白質(神経細胞が集まっているところ)はやや大きく、脳白質(神経線維が集まっているところ)はやや狭いように見えました。また両側前頭葉の部分の白質の部分が未発達のように見えました。このMRI所見はまだよくわかりませんのでこれからの課題としておきたいと思います ・知能検査成績 知能(発達)検査にはいろいろのものがあります。日本では乳幼児期では遠城寺式乳幼児分析的発達検査やK式発達テストなどがあり、療育手帳(愛の手帳)などの発給の際に使われるのは田中ビネー検査Xです、病院の心理部などで使われるのはWISC−W検査、あるいは成人ではWAIS-V検査です。自閉症者に対して知能検査を行うと、知的に極端に低いものでは、測定不能のものもありますし、逆に知能指数(IQ)が130に達するものもいます。なおIQ=100が平均値です。 知能指数は障害のない人では年齢によってあまり変わりありませんが、自閉症の子どもでは年齢とともにIQが上昇する人がかなりあります。たとえば5歳で60、小学校1−2年生で100、小学6年から中学生にかけて120などという高い値が得られることがよくみられます。 WISC検査は分析的検査で、4つの項目に分けて検査します。知能検査ができる程度の自閉症者で検査してみると、言語理解VCIと知覚推理PRIの項目が高くワーキングメモリーWMIと処理速度PSIの項目が低い傾向があります。 ・現在の自閉症の診断基準 自閉症は国際連合(WHO)による国際疾患分類(ICD-10)では次のような定義で診断されます。 @
相互的な社会関係の質的な障害 A
コミュニケーションにおける質的な障害 B
情動的な行動、関心、活動がある C
非特異的な問題として、恐怖、睡眠と摂食の障害、癇癪や攻撃性、自発性や概念の操作の欠如 が挙げられており、精神科領域では絶対的な権威を持っている。
・診断および統計による手引き(DSM-5)では A @
相互の対人的、情緒的関係の欠落 A
対人的相互反応で非言語コミュニケーション行動を用いることの欠陥 B
人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥 B @
情動性、同一保持固執、限定された興味、感覚過敏あるいは鈍感 が挙げられています。 以上の行動特質の特徴による診断は傾向診断であって、確かにそうだなあとは思いますが、それで病気にしてしまうのは、どうかなと思ってしまいます。 自閉症は脳の機能障害を主徴とする全身の障害であると思います。 以上の定義に示された傾向や行動は機能障害を持つ個体が、ある構造社会(難しい言葉を使いましたが、たとえば過去の農村的日本社会とか、現在の日本のようなエレクトロニクス中心で、部落地域性を失った社会とかを意味しています)に接触しているときに発生するものであり、自閉症に限らず先天性脳奇形、脳炎のような脳破壊性病変などでも起きることです。 農村的共同社会では障害は目立たないし、障害児者への対応も難しくはありませんが、個別的拡散型社会では対応が難しく、対策も多岐にわたり、そのための 費用も大きくなります。現実の社会は拡散型社会ですが、こういう現状の中でこれからどのような対策をとってゆくのが障害児者にとって良いかをじっくりと考えねばなりません。 ◎
自閉症への対応 自閉症の人の世界のとらえ方を知り、それを自閉症児者の指導や治療にどう生かしてゆくとよいのか。それが大切です。 しかし自閉症だからと言っても人はみな生まれも生い立ちも違い、一様な対策で解決するわけではありません。 生まれとは、遺伝的傾向のことです。もちろん自閉症が遺伝病だといっているわけではありません。しかし多少疑わしい点はありますが。 自閉症であるにしても、人はそれぞれの気質を持っています。多少親御さんの精神的気質をうけついでいて、興奮しやすい気質だとか、ずっしりしていてあまり動かないとか、人なつこいとか、人ぎらいだとか、音響過敏だとか、光線過敏だとか、いろいろの特質をもっているので、それを頭に入れて指導してゆかねばなりません。 ◎
自閉症への指導の原理 これまで述べたように、自閉症の脳神経の状態は脳神経の機能不全状態です。 神経細胞などの細胞の過剰によると説明いたしましたが、それをたとえて言え ば頭の中はジャングル状態であると例えられます。 普通の状態なら、下草を刈り,植林し、間伐をして、きれいな人工林を作るところですが、それが教育というか教化というか、そういうものですが、自閉症児では下草が茂り、苗木が下草に埋もれて見えず、巨木が伸びて天まで覆って、日も差さない状態を考えてみてください。もし貴方がその中に置かれたとしたらどう感じるでしょうか?多分呆然として何をすることもできないでしょう、次いで心細さが募ってくるでしょう。 しかし、自閉症児はその心細さをうまく表現することもできません。幼いうちは親に抱かれたり、人にあやされたりされるとよいのですが、抱かれても人にピッタリ寄り添うのが下手ですから、この子は抱かれるのが好きではないなどと誤解されてあまり抱かれなかったりしてしまいます。子供たちが遊んでいてもただ見ているだけで中に入ろうとしませんから、一緒に遊ぶのが嫌いなのだと決め付けられてしまいかねません。 しかし、自閉症児はもともと人が嫌いなのではありません。人がいないととても寂しいようです。ですからある年齢になると集団の中にいると安心するようで す。しかし集団の中で他者から痛い思いをさせられる体験があると、警戒心が芽生え、それにうまく対処することができませんから、何かわからない行動をとりがちです。ことばがなかったり、表現ができないために大声を出したり、音をたてたりします。 自閉症児はやがて自分の存在を人に認めさせる術を考えます。それは自己顕示です、自己顕示の中で多いのは自傷です。 自傷はそれを無視すると次第にエスカレートする傾向があります。これでもかこれでもかと人に迫るのですが、周囲の人はなかなかそれに気づきません。手を抑えて自傷を止めても無駄です。手を離せばまた始めます。手を包帯で縛るなどの抑制をかけると自傷はできませんが、心に傷を与えることになるでしょう。 自閉症の幼児は集団の中に入ってゆき、交わることは難しいのですが、子羊のごとく多数の中で群れていると安定します。しかしそこから連れ出して家庭に戻ると寂しさが出てくるせいか、音をたてたりして、人を呼びつけます。それが自傷の形をとることが多いものです、止めようとすると喧嘩のようになり収拾がつかなくなります。本来寄り添ってやって身体的接触をすればよいのですが 怪我を恐れて闘争になり、子供の気持ちを荒れさせてしまうことが多いようです。 私が経験した中で、とても象徴的だったのは、ドーマン療法との関連です。自閉症を治療しようというので、フィラデルフィアにあるドーマン研究所に集団で渡米する団体があり、それに参加してその強力な治療法を受けて、こんなことができるようになりましたと言って、来院される方がありました。本当にこんなことはできないだろうというようなことまでできるといわれますので吃驚いたりしましたが、帰国後に次第に精神状態が異常となり、大暴れして収拾がつかなくなったという話を聞いたことがあります。研究所では起きてから寝るまでつききりで指導を受けるので安定しているのですが、帰国すればご家族もすべてを放棄して、つきっきりで指導に当たるわけにはゆかないので、密接な接触を求める子が荒れるのだと思います。 また私はある施設で隔離室を見たことがあります。その部屋は壁や扉だけでなく、天井まで破れていたのに驚きました。どうして天井が破れているかを聞きましたら、蹴飛ばしたのですと聞きまた驚きました。おそらく罰として入れられ たのでしょうが、寂しくて、落ち着いていられず、荒れに荒れたのだと思いました。自閉症の子にとっては孤独は気が違うほど恐ろしいことなのだと後でわかりました。 自閉症児は子羊に似ています。群れを成していればして落ち着いていられる のですが、1頭だけ集団からひきはなされると、不安になり泣きわめいたり、 暴れたりします。落ち着かせるには体をさすったり、軽くたたいてやったりすると落ち着くのではないでしょうか。 また、なにか仕事を与えて、それに夢中になっていれば気を取られて、不安は軽減するかもしれません。ただし夢中になれるような仕事は、うまく探すか、練習させて覚えてもらわなければなりません。 自閉症の子の指導は松戸クリニック心理部門では行動療法を用いています。オペラント刺激を与えて、作業や学習を行わせ、強化子(レインフォーサー)(報酬)を用いてそれを固定化してゆく方法ですが、これを行うことにより不安を取り除いてゆこうとするもので、合理的な指導法と思います。 その中でオペラント刺激を自動的に与えると効果的です。たとえば時計を見 て3時になったらあらかじめ決められた場所で作業や学習を行うもので、これはすでに以前からTEACCH法に用いられているものです。 どのような課題を固定してゆくかは各自閉症児の生まれ持った個性,親の好みや入手できる資源によって決めればよいと思います。いくつもの課題を与えてちょうどその子の気質に適合しているものが選ばれると思います。 指導がうまくゆく場合もありますが、あまりうまくゆかないことが多いでしょう。一番多い失敗は指導の武器である強化子を自分で勝手に使われてしまうことです。 家の中にある食品を見つけ次第食べてしまうこともその一つで、これでは強化子としての食品はレインフォーサーとしての効力はなくなってしまいます。行動のコントロールがきかなくなってしまうばかりでなく、肥満や栄養障害をきたします。さらにそれから糖尿病やその他の代謝疾患や皮膚病や骨関節の異常やロコモ症候群と進んでゆき病院通いになってしまいます。 自閉症の人を家庭内での王様や女王様にしてはなりません。逆に親や指導者の言うことをよく聞いいて仕事をするようにしなければなりません。 強化子は食品に限りません。子供が好むものはすべて強化子になります。指導員が好きになって握手してもらうのも、短い時間だけ好きなことをさせてもらえるのも強化子になります。 年齢はありません。自閉症のことではありませんが、例えば普通の人が定年になってそれまでできなかった旅行をするのも、老人になって叙勲を受けるのも強化子です。 それによって自分の生活が豊かに感じられるようになります。 強化子学習が可能になったら、いろいろなことをこころみたいものです。 洗濯ものたたみや、食器洗い、お掃除、などの家事ばかりでなく、歌―カラオケ、 楽器演奏、絵画、スポーツなどいろいろありますが、実際に熱中できるようにな るものはそれほど多くはありません。二つか三つくらいでしょうが、それによ って、精神状態は落ち着いてきます。 ・自閉症に対する薬物療法 まだ多くの場合、自閉症児に対する指導はうまくゆかないことが多いので、親子ともに緊張が高まって、困るようになることが多いと思います。 自閉症ではなくても、もともと気分が高下する人(気分障害―躁うつ病)がいますが、自閉症児では対人関係で緊張が生まれますので、気分がたかまって躁うつ病のような状態になって困ることが多いと思います。 このような場合には気分障害の薬を使うことがあります。 また興奮して人や物に当たることがあります。このようなときには異常興奮を抑える薬があります。これらの精神安定剤は上手に使うと指導が上手くゆくようになることがあります。でも本当はそのような状態にならないように幼いうちから指導してゆくほうが望ましいと思います。 また、薬物療法を行ったからと言って自閉症そのものが治るわけではありません。自閉症児が生きやすくなる一つの便法にすぎません。 激しい自傷があるとき、これを止めようとして、統合失調症の薬を使うことがありますが、自閉症の本質を見ないでただ自傷を収めようとしても効果がないことが多いものです。 効果がないので増量してゆくと、ぼんやりして寝ているような状態になってしまいます。そこから脱出するのはなかなか難しくまた期間がかかります。 ・自閉症の身体的側面 前に挙げたように、自閉症者には脊柱が後ろから見て逆S型あるいは少数ですがS型に湾曲している人が殆どです。おそらくこれは骨格の弱さを表しているものと思います。おそらく筋力も低下しているのではないでしょうか。 このため重いものを背負ったり、両手に重いものを下げ持ったりすると脊椎に負担がかかり、側弯がひどくなる可能性があります。さらに中年以降になると腰痛が激しくなる可能性があります。どのくらいの荷重に耐えられるかはまだわかりませんが、現在の時点では合計10kg以下の荷重にとどめておいたほうが良いでしょう。 また腹筋の弱さはそけいヘルニアとなって現れることが多いです。40-50歳代に起きることが多いようです。出現すれば手術が必要になります。最近では手術として腹腔鏡手術が行われることが多いでしょう ◎
自閉症のお子さんの育ちについて。 自閉症には重い障害から軽い障害までありますので、また自閉症児を取り巻く環境も全く違うので、それぞれのお子さんの様子は全く違うことが多いと思います。しかし、ある程度の方針はあると思います。 ・行動コントロールの主権は誰にあるか 自閉症者には著しい肥満がみられることがあります。これは家庭内での主権を自閉症者に取られてしまっていることを表しています。普通は子供は何か行動を起こすときには周囲の状況をみて、行動するのですが、自閉症児では何かに気づくとすぐに実行します。たとえば冷蔵庫を開けて目についたものをすぐつかみ、食べてしまいます。このような行動は摂食に限りません。なんでも目につい。たものに飛びつき実行しようとします。行動を阻止されると興奮して騒ぎます。 このような行動は改めることができます。 実行可能な仕事を指示し、1仕業ごとに報酬を与えます。報酬は何回でも与えるので、なるべく少ないほうが良いのです、多くても少なくても効果に変わりはありません。例えばはじめは洗濯済みの衣類を1枚たたんだら一つ、例えばむ ぎチョコ1粒、報酬による強化行動が確立されたら,2仕業ごとに、慣れてきたら3仕業ごとというように減らしてゆきますが、まったく報酬を抜いてしまうことはありません。こうして指導をする人間が主権を取り戻さねばなりません。 ◎
指導の方針 指導をする場合にいくつかのことを考えねばならないでしょう。 はじめは役に立たなくても、指示に従いやすいことの学習がよいでしょう。さらに家事、身辺処理の技術、更に趣味に属するもの、などがあります。絵画、音楽、造形、スポーツなどで、その子にあったものをだんだん選択するようになります。 指導がうまくゆかず、自閉症の子供や青年が荒れることがあります。 対応として、部屋や独房に閉じ込めることがあります。これまでに書いたことでお分かりと思いますが、このような手段はまさに破局的であると思います。 一人きりの部屋では、自閉症の子供は一人きりでは怖いでしょうし、居ても立っても居られないでしょう。破局的な現象が起きることは当然なことです。 あるところで、壊れかけた部屋をみせられたことがありますが、このようなことは、自閉症の青年のいるところではよく起こりがちのことです。対応は薬でありません。これを直すのはその子の安心を保証することです。 たとえば、声掛け、身体的接触―もっともこれは難しい仕事で、場合によっては叩かれたり、噛まれたりするかもしれません。被害を最小限にするような工夫が必要です。 ・兄弟、姉妹の活用 兄弟姉妹は貴重な存在です。時々5−6才の女の子が巨大な兄を思うように動か しているのを見ることがあります。これを父母が計画的に指導すればよい結果 が得られるでしょう。 ◎
自閉症者の記憶能力について 自閉症の原因は神経組織のアポトーシスの異常であると想定して知的障害や情緒の異常を解説しましたが、他に神経機能の異常がないでしょうか、考えてみました。 特に高機能自閉症の人には非常に記憶の良い人がいることが言われています。 そこで気づいたのは、脳神経の記憶保持機能についてです。おそらく記憶はシナプスや神経細胞内部のDNAの変化によって保存されるのでしょうが、前に述べたように脳神経もシナプスも、アポトーシスによって更新されます。この際そこに蓄えられている記憶はどうなるのでしょうか。それは記憶の信号が転写されるであろうということです。 転写の正確さや速度は人によって違うでしょうが、かなり不正確なのではない かと思います。転写をくりかえすうちに記憶はおぼろになってゆきます。 自閉症者の神経細胞のアポトーシスによる更新が遅いことは、記憶が良いということになりますが、記憶にとっては果たして有利なことなのでしょうか。転 写がゆっくりであることはほんとうによいことなのでしょうか。あるいは私たちは記憶の良いことにとらわれて、過剰な判断を下しているのかもしれません。 自閉症者の特異能力についても考えてみる必要があります。著名な自閉症スペクトラム者の伝記を見ても、その能力は若いうちに発揮され、加齢とともに衰えがみられることは周知のことです。 年齢が進んでくれば、何らかのサポートが必要になるのではないでしょうか。 しかし、期間は限られていても、記憶や思考の流れが一般人をはるかに凌駕するということはすばらしいことだとおもいます。 ・自閉症者の個性とその対策 これまでいろいろのことを書いてきましたが、自閉症者がみな同じ気質、性格を持っているわけではありません。障害の重さ,性向、など様々です これまでに記載したことが育ててゆく上で一番の根拠になるのですが、それだけでうまくゆくわけではありません。自閉症に加えて、先天的な気質とくに親から受け継いだ気質にも考慮する必要があります。とくに興奮しやすい気質を持っていると対応が難しいものです。 医師、特に児童精神科医、自閉症児をよく見ている心理士、自閉症のお母さん、通所センターの職員、特別支援の学校の先生などにも相談するのもよいことで す。興奮しやすい子供も問題ですが、逆に反応の乏しい子も問題です。何もできないまま年齢だけ進んでゆきます。少なくとも身辺処理くらいできるようにしないとなりません。 ◎
自閉症児への実際の対応 ある自閉症児者が突然現れたとしたら、これまでに挙げられた種々の難点をこなしてゆけばそれですべて良しというわけにはゆきません。 自閉症という障害を持っていたとして、その対策だけでOKというにはあまりにも個々の自閉症者の在り方は多様です。生まれつきの、あるいは生活の中で作られてしまった個性があり、それらにも直面せざるを得ません。 近隣の人との関係など解決が全くできないような問題もあります。 そのような問題に直面した時、それを解決まではゆかないにしても、方向付けをして、何とか形をつけて、今後の改善に向けて出発できるように工夫することが大切です。 また、保育機関、サポ―ト・サービス、教育機関などとの連携も大切です。 ![]() ![]() ![]()
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